大判例

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大阪高等裁判所 昭和41年(ム)3号 判決 1968年7月03日

再審原告 竹越司

右訴訟代理人弁護士 花房節男

同 福井直

同 香川公一

同 国政真男

再審被告 清水初枝

<ほか三名>

右再審被告四名訴訟代理人弁護士 小久保文雄

主文

再審原告の再審の訴を却下する。

訴訟費用は再審原告の負担とする。

事実

再審原告代理人は、「大阪高等裁判所が昭和三八年六月一九日に言渡した本件当事者間の同三二年(ネ)第九六五号、同年(ネ)第一、〇八六号、同三三年(ネ)第六〇二号所有権確認等請求、家屋明渡請求控訴事件並に付帯控訴事件の判決を取り消す。再審被告らの控訴を棄却する。再審被告株式会社尾池商店は、再審原告に対し、昭和二七年一一月より同二八年四月までは月額二万五、〇〇〇円の、同年五月より同三〇年一二月までは月額二万七、〇〇〇円の、同三一年一月より同三六年一〇月末日までは月額三万七、〇〇〇円の各割合による金員を支払え。訴訟費用は、本訴、再審費用とも再審被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求原因として、

一、大阪高等裁判所は、本件当事者間の不動産所有権確認並に所有権移転登記抹消、家屋明渡請求事件につき、京都地方裁判所が言渡した再審原告の請求を容れた判決に対する控訴事件、同付帯控訴事件につき、昭和三八年六月一九日、再審被告らの控訴請求を容れ、「原判決を取り消す。被控訴人(再審原告)は、控訴人(再審被告)清水初枝、同松本英子に対し同判決添付第一、第二目録記載の不動産が右控訴人両名の所有であることを確認し、かつ、京都地方法務局下京出張所昭和二五年九月一日受付第六三七七号所有権移転請求権保全の仮登記並に同法務局同出張所昭和二九年一月二七日受付第四七四号、右仮登記に基づく所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。被控訴人の控訴人清水初枝、同清水宏、同株式会社尾池商店に対する請求をいずれも棄却する。被控訴人の付帯控訴を棄却する。参加人の請求を棄却する。訴訟費用中、参加人と控訴人清水初枝、同松本英子、被控訴人竹越司との間に生じた部分は、参加人の負担とし、その余は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決をしたので、再審原告は、最高裁判所に上告したが、昭和四一年三月一一日上告を棄却する旨の判決があり、前記判決が確定した。

二、本件当事者間の事件につき、原審の京都地方裁判所は、「争いの対象となっている不動産は、昭和二一年再審原告が資金を出し亡松本幸を通じて買い受けたものを松本幸が自分名義に移転登記していることを発見したので、昭和二五年七、八月頃その不信行為を責めたところ、同人がその非を謝り所有権を再審原告に移し売買予約の仮登記をし、かつ本登記に必要な印鑑証明書、白紙委任状、売買契約書を交付した。そこで、再審原告は、松本幸の死亡後白紙委任状等を補充して本登記をしたものであると認定し、松本幸は、大橋直之助より本件不動産を買い受けたが、その後再審原告にその所有権を移転したものである。」と判断した。

三、しかるに、その控訴審は、「再審原告が昭和二五年八月末亡中村静を通じて松本幸に、同人が本件不動産を自分名義で登記したことは横領であり、再審原告に登記を移さねば当時不振に陥っていた松本幸の製薬事業を暴露するといい、かつ直接に債権者の追及を防止するためにも再審原告に移転登記した方がよいし、そうすれば同人の生活を援助しようといい、又同人の経営する会社の製造薬品の効能のないこと、同人と中村静の内縁関係を世間に暴露されては大学教授たる中村静の社会的生命を断つことになると畏怖させて本件不動産の所有権を再審原告に移すことを承諾させて所有権移転請求権保全の仮登記をさせ、その死亡後本登記手続をしたものである。」と認定判断し、再審被告らの請求を容れ再審原告の主張請求を容れなかった。

四、しかし、この強迫による意思表示を認定したのは、事実の誤認であり、これは証人中野慶三の第一審における昭和三〇年三月二三日、同三一年一二月二六日の各証言とそれにより成立が認められた甲一〇号証の一、二、同三六年四月一五日の控訴審における証言、証人中村静の第一審における昭和三一年八月一五日と同三二年二月一四日の各証言が偽証であったのに、右判決の事実認定の基礎たる事実の確定の証拠に採用されたために生じたのである。

五、再審原告は、もし第二審において証人中野慶三の証言が採用されるようなことになれば、同人を告訴しようと準備していたところ、同人は、昭和三六年一二月四日、同中村静は、同三三年三月一五日死亡し、前記偽証につき証拠欠缺以外の事由により有罪の確定判決を得られず、再審原告は、これが再審事由に当ることを上告審判決の送達を受けた昭和四一年三月一二日に知った。中野慶三について詳しくいえば、昭和四一年四月八日再審原告が京都市下京区役所で中野慶三の戸籍謄本の下付を受けて前記日に同人が死亡したことを確認したときである。

と述べた。

再審被告ら代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁として、本件当事者間に原告主張の各判決があったこと、中野慶三、中村静が再審原告主張のとおり死亡したことは認めるが、他はすべて否認又は争う。再審原告は、再審事由を知った日を上告棄却の判決の送達を受けた昭和四一年三月一二日としているが、これは昭和三八年六月一九日言渡された前の控訴審判決が送達された日というべきである。又再審原告は、本件訴状では証人中野慶三の証言の一部を具体的に偽証として主張していたに止まり、証人中村静の証言については具体的に主張せず、その後昭和四一年九月五日付の準備書面で証人中野慶三の証言を追加し、同中村静の証言内容を述べ、更に同四一年一一月三〇日付の準備書面で中野慶三の証言を追加し、同四二年二月一四日付の準備書面で中村静の証言を追加している。しかしながら、訴状で具体的に主張してあったもの以外は、何れも再審事由を知ったときから三〇日を経過した後の主張であって再審事由として不適法である。又再審原告主張の証人らの証言は、事実に符合し、これを採用して事実認定をした控訴審の判決には事実誤認はなく、右証言が虚偽であるとの再審原告の主張は、独断の見解であって、正当ではない。仮に、再審事由があるとしても、結局において原判決は正当であるから、民訴法四二八条により本件再審の訴は却下されるべきである。と述べた。

(証拠)≪省略≫

理由

一、本件各記録によれば、当庁第一民事部が昭和三八年六月一九日本件当事者間の昭和三二年(ネ)第九六五号、同年(ネ)第一、〇八六号、同三三年(ネ)第六〇二号、同三六年(ネ)第一、二五七号事件につき、再審被告らの控訴を容れ、京都地方裁判所がした第一審判決を取り消し、再審原告主張のような判決をし、それが昭和三八年六月二八日再審原告に送達されたこと、その判決理由の主なものは、再審原告が亡松本幸を強迫して本件不動産の登記名義を売買予約を原因として再審原告に移させたものであり、松本幸の相続人たる再審被告の清水初枝と松本英子がその取消の意思表示をしたから、登記原因たる売買予約が無効に帰し、再審原告が取得した所有権移転請求権保全の仮登記と同移転の本登記を抹消せよ、この登記の有効を前提とする再審原告のその余の請求は理由がないというものであること、右事実認定の証拠として、再審原告主張の証人中野慶三、同中村静の各証言が採用されたこと、再審原告は、この判決を不服として、最高裁判所に上告したが、その上告は、容れられず昭和四一年三月一一日上告棄却の判決があり、同年同月一四日再審原告代理人に送達されたことが認められ、この原判決の第一審や第二審において証言をした証人中野慶三は、同三六年一二月四日に、同中村静は、同三三年一〇月一二日死亡したことは、その趣旨と方式により公文書であると認められる甲一、二号証によって認めることができる。

二、そこで、再審事由の存否について判断する。

再審原告の再審事由として主張するところは、控訴審の判決がその基礎たる事実認定の証拠とした証人中野慶三、同中村静の各証言が虚偽であり、偽証罪の有罪の確定判決はないが、同人らが死亡し、民訴法四二〇条二項にいわゆる証拠欠缺外の理由により有罪の確定判決を得られないときに当るから、再審事由となるというのである。同法四二〇条一項七号の事由が再審事由となるためには、罰すべき行為につき、確定の有罪判決若くは過料の裁判が確定したことを要するのであって、同条二項がこのように規定しているのは、確定判決により不利益を被った当事者が主観的に証言が虚偽であると判断したということだけで再審を許すと確定判決により確定された権利又は法律関係の法的安定を害するからである。同条二項は、又確定判決等を得られない場合でも証拠欠缺外の理由により有罪の確定判決を得られない場合にも再審の訴を許しているが、罰すべき行為につき有罪の判決が確定したときと同様に規定しているところから考えると、その行為をした者が単に死亡したというだけでは足らず、その者が既に起訴され有罪判決を得られるだけの証拠があるのに死亡したため有罪判決が得られなかった場合とか、犯罪の証明はあるが起訴猶予になり、又は公訴の時効が完成した場合のように、客観的に虚偽の陳述であることが明らかである場合であることを要するものと解するのを相当とする。本件においては、前記のように証人中野慶三、同中村静が死亡したことは明らかであるが、本件記録によっても、同人らが告訴されたことも、刑事上の取調を受けたことも、公訴提起をされたことをも認めるべき証拠はない。のみならず、本件各記録によると、再審原告が松本幸を強迫したものかどうかの事実認定の資料となった第一、二審における証人中野慶三、第一審における証人中村静の名証言と甲一〇号証の一、二の信憑性については、第一審以来争われてきた問題であって、第二審はこれにつき他の証拠や再審原告本人の供述等と比較し、あらゆる点から慎重に検討してそれが強迫による意思表示であること、従って、前記証人の各証言は、偽証でないとしたものであることが認められ、右認定は本件記録に徴し相当と認められるから、証人中野慶三、同中村静の証言が虚偽であるというのは再審原告の主観的判断ないし主張に過ぎないと認めるのを相当とする。

三、よって、再審原告の本件再審の訴は、その余の点につき判断するまでもなく不適法であることが明らかであるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡野幸之助 裁判官 宮本勝美 菊地博)

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